学校での子ども達の健康管理や保健指導については、従来から養護教諭(保健室の先生)が中心的な役割を担っておられます。これは医療的ケア児であっても同様です。医療的ケア児もその学校の児童生徒ですから、担任と養護教諭が連携し子ども達が安定した体調で教育活動に参加できるよう様々な配慮をしておられます。
そして、医療的ケア児の場合は学校に配置されている看護師にも健康管理を行う役割があります。学校での教育活動が安心・安全なものとなるよう、担任・養護教諭と看護師の三者は密に連携する事になります。
「連携」と言葉で言うのは簡単ですが、実際にはお互いに配慮が必要です。特に養護教諭と看護師の連携については、専門とする分野が近いという事もあり、双方が互いの役割を理解し、場合によっては細かいルールが必要になる事もあります。
今回、養護教諭と看護師が学校の中で上手く連携するためのコツについて、小学校で指導的な役割を担当しておられる看護師さんと意見交換をする事ができました。
病気の症状の観察や対応が必要な子ども達の健康管理はどっちの仕事だろう?
何らかの病気がある事で、学校でも症状の観察や対応、あるいは子ども自身への指導など、教育活動の中で配慮を必要とする子ども達の健康管理については、従来から担任と養護教諭の先生が担ってくださっています。その子の病状について保護者さんから情報をいただき、学校医に伝えたり、場合によっては、教育活動への参加の仕方について、主治医からご助言をいただいたりなど、子ども達の安心・安全な教育活動への参加については、丁寧に対応をしておられます。
そして、学校での医療的ケアの実施が必要な子ども達に対して配置された看護師も、医療的ケア児の健康管理という部分では、担任と養護教諭と情報を共有する場面は沢山あると思います。特に、養護教諭と看護師との役割については、共通する部分と異なる部分がある事により、互いの役割の線引きについては、学校や地域によって、あるいは、養護教諭の先生の考え方によって、色々なパターンがあるのが実態だと思います。
もちろん、キチンとそれぞれの役割が整理されていて、医療的ケア児のその日の体調や保護者からの情報などを、看護師と養護教諭が常に共有し、日常的に上手く連携が出来ている学校も沢山あります。
一方で、今回意見交換をした看護師さんとの話にも出てきたのですが、医療的ケアを必要とする子どもについては、日常の健康管理や保護者との情報共有、あるいは症状の有無の観察や対応については、全面的に看護師の担当になっている、と捉えている学校の看護師もいます。
これはあくまでも看護師側の捉え方であって、養護教諭の先生としては「他の子ども達と同様に医療的ケア児についても健康管理や保健指導を担っていますよ」という捉えだろうと思うのですが、看護師とのコミュニケーションが不足してしまうと、連携に必要な情報がシェアしにくくなります。養護教諭と看護師が、それぞれ別々に対応している?あるいは情報を共有する方法がない?というような状況になってしまう場合も残念ながら現実的にはあると思います。
案外、看護師は養護教諭の業務内容を知らない?
養護教諭は1年間を通して沢山の業務を担当しておられます。学校医による校医検診の準備、身体計測、尿検査など子ども達の健康診断の実施があります。そして、日々の子ども達のケガや体調不良時の対応、インフルエンザなど出席停止や学級閉鎖につながるような感染症の感染拡大防止対策についても、担任と情報を密にとりながら学校全体の対応を取りまとめるお仕事などもあります。養護教諭の先生は校内では非常に重要な役割を担っています。
これだけ沢山のやらなければならない業務があるのですが、学校規模によっては養護教諭の配置が一人の場合もありますので、保健室を拠点として学校全体の児童生徒への対応で、かなり多忙な状況になっておられる先生が多いのが実態ではないでしょうか。
医療的ケア児が在籍する学校の中には、看護師の待機場所として、保健室の一部のスペースを使っている場合もあり、看護師と養護教諭が常に同じ空間でお仕事をしている、という学校も沢山あります。
看護師が養護教諭の先生と同じ空間でお仕事をしている場合は、看護師が養護教諭の先生の仕事について、部分的にでも近くで見る機会もあると思います。もちろん、どの学校でもそのような環境という訳ではありません。看護師が養護教諭の業務内容についてを知る機会が少なく、実は養護教諭の先生のお仕事の事を良くわからないという場合も、けっこうあるのではないかな、と思います。
医療的ケア児が在籍する学校で勤務する養護教諭の役割としては、前述の通常の保健室業務に加えて、看護師や担任と連携し、児童生徒等の健康状態の把握や、主治医、学校医、医療的ケア指導医等医療関係者との連絡・報告などについても文科省が示しています。
当然、養護教諭の先生方も、校内の他の先生方と同様に勤務校を転勤する場合があります。医療的ケア児の在籍がなく、看護師が、配置されていない学校での勤務経験のみの養護教諭が、異動により看護師が配置されている学校で勤務する事になった場合は、、医療的ケアの実施体制における養護教諭の役割の理解や看護師との役割の整理については、その学校に配属されてから始めて経験する、という先生も沢山おられると思います。
教職員の中では養護教諭がもっとも看護師の専門性に近いはず?
養護教諭の先生の中には、看護師資格のある先生もおられます。しかし、恐らく多くの学校は、看護師資格がある養護教諭であっても、養護教諭が主な医療的ケアの実施者という役割ではなく、看護師が主な医療的ケア実施者であるとした上で、緊急時対応や外部との連携などの部分で看護師と連携する、という設定になっていると思います。
看護師にとっては、学校に入職した直後など医療的ケア児の病状や今までの経過など医療的な情報を知りたいと考えた時には、まずは養護教諭の先生と話すのが、校内では最も話しやすいのではないかと考えます。看護師の中には、養護教諭と情報共有が上手くできないと感じた時に、養護教諭が看護師資格がない事を理由にしてしまう人もまれにいますが、私はそれは違うと思っています。お互いにそれまで経験してきた事が異なるのですから、その違いを理解した上で、それぞれの役割の範囲で、医療的ケア児に関する医療面での情報を共有し、しっかりと連携できる体制を構築していく事が、医療的ケア児の安心・安全な教育を受ける環境作りには大切だと思います。
学校における子ども達の日々の健康管理は、従来から養護教諭の先生が担当してきています。病気の治療や、日常的に医療的ケアを必要とする子ども達についても主治医や学校医との連携や、保健教育の範囲での支援や指導、緊急時対応の校内体制の整備などの役割を養護教諭が担っている事を、看護師自身がキチンと理解する事が、養護教諭と看護師が上手く連携するための第一歩だろうと思います。
互いに役割を理解した上で、それぞれの専門性が発揮できるよう、校内体制を構築していくというイメージは、担任と看護師との連携体制と同様の考え方だと思います。
まとめ
看護師はついつい医療的ケア児の病状の把握や、緊急時の対応などについて医療機関での勤務経験をもとに、看護師だけの考えとスピード感で情報収集をしようとしたり、対応策を考えようとする傾向があるように私は思います。看護師は病院や訪問看護では患者さん個人にフォーカスして課題を解決する方法を模索しスピード感を持って計画していると思います。
しかし学校は教育の場です。繰り返しになりますが、今までもこれからも、病気の治療を受けながら登校している子ども達や、教育活動の中で配慮や支援が必要な子ども達が、学校で学び、学校教育の中で成長する事を支援するのは養護教諭です。
看護師が、学校での医療的ケア児への対応という事で、教職員のひとりとして学校で働くようになって長い学校では20年近くが経過していますが、当然、看護師と一緒に働いた事がない養護教諭の先生は、まだまだ沢山おられます。
看護師は養護教諭の業務内容を理解するとともに、養護教諭の先生は、学校教育としての視点を看護師にしっかりと伝えていただき、子ども達の学びが豊かなものになるように、お互いの役割を尊重しながら上手く連携ができている体制を校内で構築できれば、医療的ケア児の学びの環境としては理想的な状況になっているのだろうと思います。
今回、小学校で指導的な役割を担当する看護師さんと意見交換をさせていただいた事で、あらためて、養護教諭との連携の重要性を実感する事ができました。
文部科学省業令和2年度学校における医療的ケア実施体制構築事業「学校の看護師としてはじめて働く人向けの研修プログラム」👉👉https://www.mext.go.jp/content/20220527-mxt_tokubetu01-000017950_01.pdf