特別支援学校で働くベテラン看護師さん達との意見交換の中で、学校の看護師のための「人材育成研修」ってあります?という話が出ました。人材を育成する以前に、そもそも学校で働く看護師の役割を果たすために必要な「能力」ってハッキリしてましたっけ?という話になり、この点を皆さんと少し深掘りする事ができました。
学校の看護師の「役割」と求められる「能力」とは
学校の看護師の「役割」については、以前にも紹介しました文科省の通知文の中に記載されています。
しかし学校の看護師が、その役割を果たすために必要とされる「能力」については、文科省はまだ示していません。具体的な「○○する能力」や「●●できる力」というような表現の文言は、文科省の資料等では見つける事はできないと思います。
日本訪問看護財団作成の「指導的な役割を担う看護師に求められる研修の全体像」の中では、学校で指導的な役割を担う看護師に求められる「能力」についての記載はありますが、学校の看護師に求められる「能力」については、まだハッキリとしていない??というのが現状ではないでしょうか?
日本訪問看護財団「指導的な役割を担う看護師に求められる研修の全体像(案)」👉https://www.jvnf.or.jp/katsudo/kenkyu/2021/zentaizouan.pdf
人材育成研修は「求められる能力」と「自分の能力」の差を埋める事が目的
学校の看護師に求められる「能力」はまだ明確になっていませんが、看護師研修の企画や運営については、現状は、看護師からの要望や、あるいは、自治体や学校が看護師に期待する能力をイメージして、自治体や学校毎の判断で実施されている、というのが実態だと思います。
今回、私が意見交換をさせていただいたベテラン看護師の皆さんも、研修に対するニーズは、それぞれに微妙に異なっている様子でした。子ども達の疾患を理解したい、あるいは、最新の医療機器について詳しく知りたい、などいわゆる「看護技術」のスキルアップが研修ニーズとなり、そういった研修が実施されてきたとの事でした。
一方、「学校教育」という部分についても関心がある方もいます。これについては、看護師は学校での仕事を開始する事になって始めて知る知識です。「あらためて説明を受けた事がないから、知りたい」という方もいました。
日本訪問看護財団作成「学校における医療的ケア実施対応マニュアル」看護師用の17ページには、「医療的ケア児の教育」として大変重要な事が書かれています。
「学校においては、医療的ケア児の可能性を最大限に発揮させ、将来の自立や社会参加のために必要な力を培うという視点に立って、医療的ケアの種類や頻度のみに着目して画一的な対応を行うのではなく、一人一人の教育的ニーズに応じた指導を行う事が求められている。(中略)看護師等は、成長・発達の過程にある子どもが、安全で豊かな学習活動を継続できるように、フィジカルアセスメントと個別性を踏まえた医療的ケアを行う必要がある。(中略)脆弱性の高い子どもの事故予防対策と緊急時の対応において重要な役割を果たす事から、教職員との連携や多職種協働が必要不可である。」
日本訪問看護財団「学校における医療的ケア実施対応マニュアル」看護師用の第Ⅰ章👉https://www.jvnf.or.jp/katsudo/kenkyu/2019/caremanual_nurse_1.pdf
この部分より、医療的ケア児の教育を支える事ができる「能力」が、学校の看護師には求められている、と読み取っても良いのでは?と私は思っています。
学校の看護師には医療的ケア児の教育を支える事ができる「能力」が求められている
医療的ケア児の教育を支える事ができる「能力」をつけるためには、当然【医療的ケア児の教育】とはどういったものか?について知る必要があると思います。つまり「一人一人の教育的ニーズに応じた指導」や「安全で豊かな学習活動」が、自分が担当している子ども達については、どういった「指導」を受けて、どんな「学習活動」を行っているのか?を看護師として知っていないと、「医療的ケア児の教育を支える」具体的な看護をイメージする事ができないはずです。
学校の看護師には「【医療的ケア児の教育】を理解した上で看護を実践する能力」が求められている、という事ではないかな?私は捉えています。
「教育活動」と「医療的ケア」は密接に連携
「学校における医療的ケア実施対応マニュアル」には「教員が行う教育活動と看護師が行う医療的ケアは密接に連携」している事が図で示されています。(18ページ)「教員と看護師は互いにその専門性を発揮して児童生徒の成長・発達を最大限に促す」と示されてますので、学校の看護師は「教員が行う教育活動」を理解できる力が必要になってくると思います。
「教員が行う教育活動を理解できる力」は、文科省が示す学校の看護師の「役割」の項目と照らし合わせると、ピッタリと合う役割の表現はありませんが、私は、どの役割を果たすためにも必要な能力だと思います。特に「教職員、保護者との情報共有」や「医療的ケア児のアセスメント」という「役割」を遂行するための核となる「能力」ではないでしょうか。
まとめ
今回、私が意見交換をさせていただいたベテラン看護師の皆さんは、学校での勤務経験の中で、教員が行う「教育活動」を理解した上で「医療的ケア児のアセスメント」を行い、豊かな学習活動ができるような看護を実践しておられました。既に必要な「能力」は皆さんは持っておられるのですが、この能力は勤務経験の中で試行錯誤しながらつけた能力であって、今までの経験の中では「教育活動を理解する事を目的とした」研修を受講された事はないとの事でした。
「【医療的ケア児の教育】を理解した上で看護を実践する能力」は、病院や在宅での看護を実践する能力とは異なる「能力」だと思います。この「能力」をつける事を目標をした研修が、今後、看護師の研修計画に当たり前に入る事で、子ども達の豊かな学習活動の実現に繋がって行くと思います。
私は、自分自身の経験や、皆さんとの意見交換の中で得た知見を取り入れ、こういった研修に対応できるスキルをつけていききたいと思っています。