特別支援学校で働くベテラン看護師さん達と意見交換ができました。看護師配置については長い歴史のある学校です。その学校の看護師業務の整備については、指導的な役割を担う看護師さんを中心に、時間をかけて丁寧に行ってこられた経過を聞かせてくださいました。皆さんのお話を伺う中で、学校で看護師がしっかりと役割を果たすためには、当然の事ですが、看護師が個々に仕事をするのではなく、組織として管理運営していく事の重要性をあらためて実感する事ができました。
学校という職場を看護師が看護師として働ける場所にする
学校で働く看護師の業務内容は、今まで何度も書いているように、全国で標準的なものがある訳ではなく、学校毎、地域毎に異なっています。多くの学校や地域では、医療的ケア児の受け入れ開始をきっかけに、看護師の雇用と業務内容や備品の整備に着手する場合が多いというのが実態です。
それゆえに、最初に受け入れた医療的ケア児のケアの内容や状態に合わせる形で、最初のルールが決まる事が多いと思います。
しかし、始めに決めたルールのままで、何年間も運用できる事ばかりではありません。医療的ケア児の人数が増えるに従い、子どもの状態やケアの内容も色々なパターンが増えるため、昨年度までは特に問題がなかったルールが、今年度はそのままでは使いづらくなる、という事は当然起こりえる事です。
看護師の勤務体制についても、ルールに基づいて運用していく中で、医療的ケア児の進級、成長に伴うケアの内容や状態の変化に応じて、体制やルールをブラッシュアップする必要性が出てきます。学校という場所を、看護師が看護師として働ける場所にしていくために、組織として運営し、体制を安定化させ、成熟させていくという体制の進化は、多くの自治体や学校で行われてきていると思います。
看護師チームにリーダーを置く事の重要性
文科省は平成31年3月の「学校における医療的ケア実施体制の今後の考え方」の中で「指導的役割の看護師の配置」について、その役割を明記しています。さらに、つい先日文科省はホームページで「指導的な役割を担う看護師に求められる研修の全体像(案)」をいう資料も公開しています。私自身もこの資料作成に関わりましたので、是非ご一読いただきたいと思います。「学校での看護師業務のマネージメントを行う」指導的な役割を担う看護師の人材育成については、文科省も必要性を認識しています。
👉文部科学省ホームページ「学校における医療的ケアの今後の対応について」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/__icsFiles/afieldfile/2019/03/22/1414596_001_1.pdf 👉文部科学省ホームページ「指導的な役割を担う看護師に求められる研修の全体像(案)」https://www.mext.go.jp/content/20220527-mxt_tokubetu01-000023012_09.pdf
学校という職場で、看護師チームのリーダーとして活躍できる看護師に「求められる力」を付けるための研修を、自治体において実施していく事で、今後は、多くの自治体や学校に指導的な役割を担う看護師が設置されていく事を文科省は期待している、という事です。
リーダーの役割を発揮する事で様々な課題を整理し看護師としての立ち位置が明確になる
今回意見交換をさせていただいた学校の看護師の皆さんは、指導的な役割を担う看護師さんに対して、絶大な信頼を置いておられました。今までの様々な苦労を一緒に乗り越えて来た同士でもあり、リーダーとしてぶれない態度を、皆さんはリスペクトしておられました。本当にうらやましいチーム力です。
この学校においても看護師の配置を開始した当初から全てが上手くいっていた訳ではなく、指導的な役割を担う看護師が配置される以前は、教員と看護師が情報共有する事さえも難しく、お互いの役割や、自分の立ち位置も理解できないまま、色々な課題が次々と積み上がっているような環境だったようです。
そこに指導的な役割の看護師が配置された事により、看護師と教員の間で情報交換ができるようになり、看護師の業務改善を次々に行ってきたとの事でした。
決して簡単にできた訳ではないと思いますが、何より、判断し決定できる権限を持った指導的な役割の看護師を配置した事で、看護師チームを組織的に管理運営できるようになった事が大きいと思います。まさに、看護師の学校組織における立ち位置が明確になったという事だと思います。
教員と看護師の連携や情報共有は組織の枠組みがあるからできること
何度かTwitterとFacebookに書いてきましたが、学校で働く看護師は、「教員との連携」を課題に感じている人が多い印象です。教員との連携が上手くできている学校は、看護師自身の仕事に対する肯定感も高く、「看護師は教員が行う指導を支えている」「子ども達が教員の指導によって成長する事を自分が支えている」という発言があります。学校における看護師の役割を遂行する事ができている状態を実感して働いておられます。
しかし、教員と上手く連携できる、という事は、決して個人の能力だけが高ければできるというものではありません。教員チームと看護師チームのそれぞれにリーダーがいて、それぞれに組織としての関係性を意識し、組織の枠組みの中で、連携体制が組まれているから、互いに上手く連携ができているという事になります。ここでも指導的な役割の看護師が設置されている事がキーになるはずです。
「学校の中での看護師の役割」を看護師各自が理解し、自分の役割を確実に果たす事が子ども達の学びや成長に繋がっている、という事を、今回意見交換させていただいた看護師の皆さんはキチンと理解しておられました。
まとめ
私は「指導的な役割を担う看護師を育成する研修」が現在存在していない、という事が課題だと思っています。各地では既に何名かの「指導的な役割を担う看護師」として指名されて勤務している看護師がいますが、共通する資格やラインセンスはありません。しかも、指名されている人は誰もいなくて、事実上指導的な役割を担わざるを得ない状況で勤務している方がいるのも事実です。
私の個人的な意見ですが「指導的な役割を担う看護師を育成する研修」は「看護師の人材育成」ですから、学校や自治体教育委員会というところだけで運営できる研修ではないと思っています。看護師の研修は看護師が企画し運営すべきだと思います。
今後、看護協会でこういった研修が企画される事に期待したいと思います。